NEAR Protocol（ティッカー：NEAR）は、分散型アプリケーション（DApp）をスムーズに動かすために設計された次世代レイヤー1ブロックチェーンです。特徴は、高速な処理速度、低手数料、使いやすさ、そして拡張性に優れていること。
EthereumやSolana、Avalancheといった他のレイヤー1と同じく、「スマートコントラクトが動く基盤チェーン」として機能しますが、NEARには以下のような特徴があります。
- 独自のシャーディング技術「Nightshade」によるスケーラビリティ
- 1秒未満のトランザクション確定速度
- ほぼ無料といえるレベルの手数料
- 読みやすいアカウント名（例：yourname.near）
- JavaScriptでも開発できる柔軟なスマートコントラクト環境
また、Ethereumと互換性を持つ「Aurora」、AppChainを展開できる「Octopus Network」など、独自のエコシステムが急成長しており、単なるL1チェーンではなく「Web3 OS（オペレーティング・システム）」を目指すなど、他にはないビジョンを持っています。
本記事では、NEARの基本から、技術的優位性、投資的な魅力、そしてまだ日本語ではあまり語られていないAI統合やBOS構想など、深掘りして紹介していきます。
NEARの中核技術──NightshadeとDoomslugの正体
NEAR Protocolの最大の武器。それが「Nightshade」と「Doomslug」という2つのコア技術です。
Nightshade：無限スケーラビリティの基盤
NEARは、複数のシャードに取引を分散させて並列処理する仕組み、いわゆるシャーディングを本格実装しています。
その中核にあるのが「Nightshade」。これは単なる分散処理ではなく、一つのブロックチェーンのように動作しつつ、裏では複数のシャードで並列化が行われるというスマートな設計です。
Nightshadeの凄みは、ノード数が増えるほどネットワークの性能も上がるという“スケーラビリティのスケーラビリティ”にあります。他のチェーンでは混雑で手数料が高騰する場面でも、NEARでは混雑を受け入れられる設計がなされています。
Doomslug：取引がほぼ即時で確定する
一方で、NEARの高速さを支えるのが「Doomslug」という合意アルゴリズム。
難しい話を飛ばすと、これはNEAR独自の仕組みで、取引が1ブロック（約1秒）でほぼ確定するスピードを可能にしています。
他のチェーンでは数分かかる「ファイナリティ（最終確定）」が、NEARではほぼリアルタイム。これが「NEARでゲームや決済が快適に動く理由」です。
NEARは“使える”ブロックチェーン──UX重視の柔軟設計
NEAR Protocolのもう一つの魅力は、ユーザー体験（UX）と開発者体験（DX）のバランスに優れている点です。ここでは、NEARが“触りたくなるブロックチェーン”である理由を掘り下げます。
①「yourname.near」で送金できるアカウント設計
NEARではウォレットアドレスが人間に読める名前です。
たとえば「alice.near」「coffee-shop.near」のように、ランダムな16進数のアドレスは不要。これにより、初心者でも混乱せずに送金やDAppの利用ができます。
② ガス代を“アプリ側が払う”こともできる
NEARのアカウントモデルは非常に柔軟で、スマートコントラクトが手数料を肩代わりする設計も可能です。つまり、ユーザーはウォレットすら意識せず、アプリをWeb2感覚で使える。
これを支えるのが「Access Keys」という独自の機能。キーごとに権限を調整できるので、「このアプリでは無料ログイン」「このDAppでは支払いだけ許可」といった制御もスマートにできます。
③ JavaScriptでもスマートコントラクトが書ける
Solidityに縛られず、JavaScript（AssemblyScript）やRustで開発できるのもNEARの魅力。既存のWeb開発者がそのままDApp開発に参入できるため、開発コミュニティの広がり方が非常に柔軟です。
NEARを支える“エコシステムの広がり”
NEAR Protocolは単なるプラットフォームではありません。
その上に“何が動いているか”──それこそが投資・利用の判断材料になります。
ここでは、NEARのエコシステムを牽引する3つの代表的プロジェクトを紹介します。
① Aurora ── Ethereum互換をNEAR上に実現
AuroraはNEAR上で動くEVM互換環境です。
Solidityで書かれたEthereumのDAppを、ほぼそのままNEAR上で動かすことができます。
ポイントは、超高速・超低手数料のNEARの性能をそのまま活かせる点。
しかもガス代はETHで支払い可能なので、ユーザーはEthereumにいる感覚でNEARの恩恵を受けられるのです。
② Octopus Network ── “アプリ専用チェーン”を立ち上げられる
Octopusは、NEARの上に「Appchain（用途特化の独立チェーン）」を展開できるネットワークです。
CosmosやPolkadotと似た発想ですが、NEAR上でより安価・柔軟・高速に展開できるのが魅力。
例えば、ゲームだけに最適化したチェーン、SNSに特化したチェーンなど、個別に経済圏を持つ分散型のDApp構築をサポートします。
③ Sweat Economy ── “歩いて稼ぐ”Web2からのブレイクスルー
Sweat Economyは、かつて1億人が利用した「歩いて稼ぐアプリ」です。
このプロジェクトがNEARを基盤にWeb3化し、新たなユーザーをNEARに一気に引き込んだ事例として話題になりました。
運動で得たトークンをNEAR上で管理・利用し、ウォレット体験すら意識させないUIを実現。
このように、NEARはWeb2企業の“Web3進出先”としても選ばれているのです。
他のレイヤー1と比べたときのNEARの強さ
NEARは“次世代のレイヤー1”と評されることが多いですが、
実際のところ、SolanaやEthereumと比べてどこが強いのか？を整理してみましょう。
① EthereumとNEAR：コストとスピードの決定的差
Ethereumは依然として王者ですが、手数料が高く、トランザクション確定も遅いという難点があります。
NEARはこの両方を解決。数千分の1ドルのガス代、1秒以内の取引確定を実現しています。
さらに、NEARではLayer2に頼らず、L1単体でスケールできるのも大きな違い。
Ethereumが“L2の集合体”を目指しているのに対し、NEARは“L1の完成系”を志向していると言えるでしょう。
② SolanaとNEAR：単一 vs シャーディングの哲学
Solanaは超高速ですが、単一チェーン構造のためスケールに限界があります。
NEARは「Nightshade」により、シャードを水平に追加することで性能を無限に伸ばせる設計。
さらに、Solanaは頻繁なネットワーク停止が問題視される中、NEARは2020年以降ダウンタイムゼロ。
この安定性と可用性の高さも、NEARを選ぶ理由のひとつです。
③ Polkadot・Cosmosとの比較：Appchainの柔軟性
Octopus NetworkによってNEARは“Appchainが立てられるL1”という立ち位置も得ています。
これはPolkadotやCosmosに似ていますが、NEARの方が参入コストが安く、開発スピードも早いのが特徴。
実際、Octopusのチームは複数チェーンを検討した上で「NEARが最も高速で合理的だった」と語っています。
NEAR Foundation──豊富な資金力と長期戦略
NEAR Protocolの背景には、スイス拠点の非営利団体「NEAR Foundation」の存在があります。
この組織が資金調達やエコシステム支援、グローバル戦略を一手に担っており、NEARの強固な基盤を支えています。
① 総額5億ドル以上の調達──業界トップクラス
NEARは2022年にTwo Arrows CapitalやFTX Venturesなどから、合計5億ドル以上の資金を調達。
さらに、8億ドル規模のエコシステム支援基金も用意し、開発者や新興プロジェクトに大胆に投資を行っています。
この潤沢な資金が、他のL1と比べても圧倒的に厚い開発支援体制を実現しています。
② 地域ハブ・教育・イベント──土台から攻める戦略
NEAR Foundationは世界各地に地域ハブを展開（アジア・ヨーロッパ・南米など）。
現地開発者との接点を作り、NEARに触れる機会を増やすことで、地道に人を巻き込むエコシステム戦略をとっています。
また、NEARCONなどの大型カンファレンスや、開発者向けアカデミーなど、学び・出会い・投資の場をセットで提供しているのも特徴です。
③ 自律分散ガバナンスへの移行「NDC」
NEARは、財団による中央集権運営から、コミュニティ主導のガバナンス「NDC（NEAR Digital Collective）」への移行を進めています。
選挙や憲法、資金分配システムなどをコミュニティに任せる流れで、真のWeb3へ踏み出す構造転換の途中です。
誰も知らない“NEARの未来地図”──AIとBOSの融合
NEARはただのブロックチェーンではありません。
最近では、他のプロジェクトが触れていない“未来への布石”を次々と打ち始めています。
① NEARは“AIのためのブロックチェーン”になる？
共同創設者が元AI研究者という背景もあり、NEARは「AI×Web3」を真剣に進めています。
例えば、「自律エージェント」──AIがユーザーの代理でブロックチェーン上で資産を管理・移動・契約執行する、という構想。
NEARはこれを可能にするための基盤（NEAR AI SDKやIntent Layer）を着々と開発中です。
これは、単なる“AI活用”ではなく、「AIが経済主体になる時代」に向けた基盤作り。
この路線に真正面から取り組んでいるL1は、今のところNEARだけと言っても過言ではありません。
② BOS──Web3のOSを目指すNEARのもう一つの顔
NEARが2023年から推進する構想が「Blockchain Operating System（BOS）」。
これは“マルチチェーン対応のアプリ起動ポータル”のようなもので、NEAR以外のDAppも含めたWeb3の入口を提供しようとしています。
UIコンポーネントはすでに数千点がOSSで公開。
ユーザーは一度ログインすれば、EthereumやPolygonのDAppにもシームレスにアクセスできます。
つまりNEARは、「チェーンそのもの」から「Web3のOSそのもの」へ進化しようとしているのです。
NEARが目指す“次のWeb3”──その可能性と魅力を総括する
① スケーラビリティ×UX──“誰でも使えるWeb3”の実現へ
NEARは、「シャーディングで無限にスケールし、UXでも誰でも使えるレベルに落とし込む」。
この“性能と親切設計の両立”を、L1単体で達成しようとしている稀有な存在です。
その思想は明確です。Web3は一部のマニアのものではなく、日常に溶け込むべきという未来像を持っています。
② 自律化・OS化・AI統合──“Web3の生態系”をまるごとデザインする
NEARはもはや「スマートコントラクトが動く土台」にとどまっていません。
BOSでWeb3全体の入口を提供し、NDCで運営をコミュニティに移し、NEAR AIで人間の代理をAIが担う未来を描いています。
そのすべてが繋がるとき、NEARは「ブロックチェーン」というより「新しいインターネット空間」として存在するかもしれません。
③ 投資家・一般ユーザーにとってのNEAR
NEARは、投資家にとっては「実需と資本が結びついたL1」であり、
一般ユーザーにとっては「わかりやすく、使えるWeb3」です。
大きな波はまだ来ていない──だからこそ、NEARが描いているビジョンを今知っておくことには意味があります。
数年後、NEARが「Web3の入り口」「AIの経済基盤」「新しいソーシャル空間」として語られる時、
この記事があなたの“先回り”の一歩になっていたら嬉しいです。
