
Ethereumとは、スマートコントラクト(自動実行される契約プログラム)をブロックチェーン上で動かせるプラットフォームです。
ビットコインが「通貨のやりとり」に特化しているのに対し、Ethereumは「アプリケーションの土台」として、分散型金融(DeFi)やNFT、DAOなど、さまざまなWeb3サービスの基盤となっています。
Ethereumの最大の特徴は、誰でも改ざんできない形でルールを設定し、世界中の人がその上でアプリを動かせる「公共インフラのような役割」を果たしていることです。
ZK-EVMの次フェーズ──ValidiumとVolitionとは何か
ZK-EVMとは?

ZK-EVMとは、「ゼロ知識証明(ZK-Proof)」という暗号技術を使って、Ethereumの仮想マシン(EVM)をそのまま再現しつつ、取引内容を知られずに正しさだけを証明できる仕組みです。
ZK-Rollupと組み合わせることで、高速・安価・安全な処理が可能になり、L2(レイヤー2)として注目を集めています。
Ethereumの互換性を保ちつつ、スケーラビリティ問題を解決する手段として期待されています。
特に、ZK-EVMは既存のスマートコントラクトを変更せずに利用できる点が大きな利点です。
また、取引のプライバシー保護とネットワーク混雑の軽減にもつながります。
PolygonやScroll、zkSyncなどのプロジェクトがこの技術の実装を進めています。それは、従来のEVMと同様にコードを書けるため、開発者にとっても親和性が高いのです。
今後、L2技術の主流になる可能性が高く、多くの投資家や開発者が注目しています。
Validium:データはオフチェーン、でも安全はオンチェーン

Validiumとは、データそのものはオンチェーンに保存せず、ゼロ知識証明だけをEthereum上に記録する方式です。
これにより、L2上の処理を超高速・超低コストで実現できますが、「データ可用性」の部分ではややリスクを含みます。
Immutable X や StarkEx などがこの方式を採用しています。
オンチェーンにデータを保存しない分、Ethereum本体の負荷が大きく軽減されます。一方で、万が一オフチェーンのデータ提供者がダウンすると、ユーザーは自分の資産を復元できなくなる恐れもあります。このため、Validiumでは「信頼できるデータ提供者の存在」が非常に重要になります。
主にゲームやNFT取引など、処理速度とコストが重視される分野に適しています。
セキュリティとパフォーマンスのバランスをどう取るかが、今後の普及の鍵になります。
ZK-Rollupと同じZK技術を使いつつも、Validiumはより「外部依存型」の設計だといえます。
Volition:オンとオフを選べるハイブリッド型

Volitionは、ValidiumとRollupのいいとこ取りをした方式です。
ユーザーがトランザクションごとに「オフチェーンで安く」または「オンチェーンで堅牢に」と切り替え可能。
用途に応じた柔軟な選択ができる次世代型のスケーリング技術です。
たとえば、少額の取引やゲーム内アイテムなどはオフチェーンで高速・低コストに処理できます。
一方で、大きな資産や重要な取引はオンチェーンで安全性を確保することができます。
この「選べる可用性」によって、コストとセキュリティの最適化が可能になります。
ユーザー主導で処理方式を選べることは、今後のWeb3アプリの設計にも大きな自由度をもたらします。
StarkWareなどがこのVolitionモデルを採用し、実運用のフェーズにも入っています。
L2の進化系として、ユースケースごとの最適解を提示する革新的な技術です。
日本語ではなぜ紹介されていない?

ZK-Rollupは徐々に日本語でも話題になりつつありますが、その次に位置するValidiumやVolitionについては、開発者向けフォーラムでしか議論されていないため、日本語解説が極端に少ないのが現状です。
これらの技術は高度かつ専門的な内容を含むため、一般向けメディアではほとんど取り上げられていません。
特にVolitionに関しては、ユーザーが処理方法を選べるという革新性がありながらも、その詳細な仕組みはまだ広く認知されていないのです。
Validiumもまた、ZK-Rollupと比べて“データ可用性リスク”という新たな論点を含むため、正確な理解には背景知識が求められます。
だからこそ、日本語でわかりやすく解説する情報の需要はこれからますます高まっていくでしょう。
L2技術の選択肢が広がる中で、これらの違いを正しく伝えることが、Web3時代のインフラ理解に不可欠なのです。
情報の非対称性がある今だからこそ、これらの技術を体系的に日本語で発信する意義は大きいでしょう。
ZK-Rollupだけでなく、その先にある選択肢の多様性も含めて語ることが、Web3の本質に近づく第一歩です。
EigenLayerとリステーキング──ETHは“再利用”できる
EigenLayerとは?

EigenLayerは、「Ethereumに預けているETHの信頼性」を、他のプロトコルでも“貸し出す”ことができる仕組みです。
これにより、別のプロジェクトでもEthereumと同じセキュリティを享受でき、セキュリティの効率化が進みます。
Ethereum経済圏の中に「共有セキュリティ市場」を作り出す革新的な試みです。
通常、ブロックチェーンプロジェクトは独自のバリデータを持つ必要がありますが、EigenLayerではその必要がありません。
すでにステーキングされているETHを再利用することで、セキュリティ構築コストを大幅に削減できます。
その結果、新興プロジェクトでも高い安全性を確保しながら、迅速にローンチが可能になるのです。
ただし、ETHの信用を複数のプロトコルに同時に預けるため、リスクの連鎖にも注意が必要です。
リステーキングの利用範囲や条件を慎重に設計しなければ、Ethereum自体の安全性に影響を及ぼす可能性もあります。
それでも、信頼の再利用という概念は、Web3インフラの成長を加速させる鍵となるでしょう。
スラッシングとリスク管理

2025年、EigenLayerではスラッシング(不正時にETHを没収する機能)がついに導入。
これにより「ただ報酬を得るだけ」でなく、「責任も負う」形が整い、本番環境でのセキュリティ担保が始まっています。
これまでのリステーキングは“報酬の再活用”という側面が強調されてきました。
しかし、スラッシング導入により「信頼を預かる者」としてのリスクが現実のものとなります。
不正やダウンタイムが発生した場合には、預けたETHが削減されるという仕組みが稼働します。
そのため、リステーキング参加者は報酬だけでなく、損失リスクも受け入れる必要が出てきました。
これは単なる金融商品ではなく、「セキュリティ提供者という役割」を伴う行為になったことを意味します。
プロトコル間の信頼関係をより強固にする一方、慎重なリスク評価が今まで以上に重要になります。
本格稼働を迎えたEigenLayerは、リステーキングのあり方そのものを問い直す段階に入ったといえるでしょう。
Vitalikの懸念:「Ethereumの責任が重すぎる」

Vitalikは、EigenLayerのような仕組みによってEthereumが「何でも屋」になってしまうリスクを警告。
「Ethereumの合意形成は、ブロックの検証だけに集中させるべき」というミニマリズム哲学を再確認しています。
これは、Ethereumが本来持つ中立的でシンプルな設計原則を守るための立場です。
リステーキングによって他プロトコルのセキュリティまで肩代わりするようになると、本来の役割が曖昧になる恐れがあります。
もし外部プロジェクトで問題が発生し、Ethereumの合意層が巻き込まれれば、信頼の根幹が揺らぎかねません。
Vitalikは、Ethereumが「信頼の源泉」になることは重要であっても、「他者の責任を背負う構造」には慎重であるべきとしています。
この発言は、リステーキングに対する技術的な警鐘であると同時に、イーサリアム哲学の再確認でもあります。
EigenLayerが目指す効率と拡張性は革新的ですが、それがEthereumの中立性と引き換えにならないかという問いが投げかけられているのです。
今後は、機能的な発展と哲学的な一貫性のバランスが、Ethereum開発者たちに求められていくでしょう。
DankshardingとBlob Markets──Ethereumのデータ戦略
Dankshardingとは?

Dankshardingとは、Ethereumのスケーリング技術の一つで、大量のデータを効率よく処理するための構造です。
将来的にはEthereumが1秒間に数万件の処理をこなすための“中核”になります。
従来のシャーディングと異なり、「データ可用性サンプリング(DAS)」という仕組みを活用しています。
これにより、全ノードがすべてのデータを保存しなくても、正しくデータが存在することを確認できるようになります。
特に、RollupなどのL2ソリューションがEthereumにデータを投稿する際の負荷を大きく軽減できるのが特徴です。
Dankshardingの基盤となる“プロト・ダンクシャーディング(Proto-Danksharding)”はすでに導入が進んでいます。
これにより、まずは「データの安価な書き込み」が可能となり、L2の手数料低下に直結しています。
本格的なDankshardingが実装されれば、L2経由の利用がより一般化し、Ethereum全体のスループットが飛躍的に向上します。
最終的には、世界中のアプリケーションを支える“グローバルなデータレイヤー”としての地位が期待されています。
Proto-Dankshardingとブロブの導入

2024年に実装されたProto-Danksharding(EIP-4844)では、Blob(ブロブ)と呼ばれる一時的な大容量データ領域が登場しました。
L2が安価にデータを投稿できるようになり、手数料を大幅に削減することに成功しました。
これは、RollupがEthereum上に書き込むデータコストの大部分を占めていた“calldata”問題に対する明確な解決策です。
Blobは数週間で自動的に消去されるため、Ethereumの状態サイズに影響を与えずにスケーラビリティを向上させられます。
これにより、zkRollupやOptimistic Rollupがより多くのユーザーを受け入れられるようになりました。
EIP-4844はあくまでDankshardingの“前段階”であり、フル実装に向けた重要な足がかりと位置づけられています。
手数料の大幅低下は、L2エコシステムの経済圏拡大を後押しし、DeFi・ゲーム・NFT分野にとっても追い風となりました。
また、Blob領域はRollup専用に設計されており、一般ユーザーのトランザクションとは分離されているのも特徴です。
今後の本格的なDanksharding導入により、さらに多くのデータ処理能力がEthereumに追加される予定です。
Blob Marketsの課題

ブロブ利用が急増すると、ブロブ手数料の高騰が発生。
本来「安い領域」のはずが徐々に値上がりし、L2運営者が投稿を遅延させるなど、インセンティブのねじれが問題になりました。
この現象は「ブロブ競争」とも呼ばれ、Rollup同士が限られたブロブ空間を奪い合う構図を生み出しました。
手数料の高騰は、本来期待されていた「L2の安価さ」というメリットを一時的に打ち消す形となります。
一部の運営者は、ピーク時の投稿を避けて意図的にデータ提出を遅らせるなど、ネットワーク全体の即時性にも影響を与えました。
このような投稿遅延は、ユーザー体験の低下やアプリケーションの信頼性に直結する重大な課題です。
Ethereumコミュニティでは、手数料モデルの再設計や、ブロブ容量の自動調整メカニズムの導入が検討されています。
将来的には、需要に応じて柔軟にスケールする「アダプティブ・ブロブ手数料」が導入される可能性もあります。
Proto-Dankshardingはあくまで初期ステップであり、本格的なDankshardingではこれらの課題に対する構造的な解決が期待されています。
開発者の対応と提案

Ethereum Researchでは、ブロブの上限数を「3→6〜9に拡大すべき」という提案が出され、Vitalikもこれを支持。
今後のアップグレードで調整が進む予定です。
この提案は、ブロブ需要の高まりに応じたスケーラビリティ改善の一環として位置づけられています。
現在の「ブロブ3個制限」では、Rollupが同時に大量のデータを投稿する際に混雑が発生し、手数料の急騰を招いています。
上限数を6〜9に増やすことで、競争を緩和し、より安定的な手数料水準を保てる可能性があります。
Vitalik自身も、L2の成長を支えるために「柔軟なリソース供給」が不可欠だと繰り返し発言しています。
ただし、ブロブを増やすことでノードの負荷が増加する懸念もあり、慎重なパラメータ設計が求められます。
この提案はEIP化が検討されており、Ethereumの“データレイヤー”としての機能強化が進められています。
Danksharding実装への過渡期において、こうした調整はネットワークの健全な成長にとって重要な役割を果たすでしょう。
EIPの現在地──Ethereum改善提案の最前線
EIPとは?

EIP(Ethereum Improvement Proposal)とは、Ethereumの仕様改善や新機能追加を提案するための標準フォーマットです。
新しい技術の導入やバグ修正、ルール変更など、Ethereumの進化はこの提案によって進みます。
EIPはGitHub上で公開され、コミュニティ全体で議論された後、合意が取れればアップグレードとして実装されます。
有名な例では、手数料モデルを変更したEIP-1559(Londonハードフォーク)や、ステーキングを導入したEIP-3675(Merge)などがあります。
この仕組みは、Ethereumがオープンな進化を続けるための中核でもあり、技術者・研究者・ユーザー全員が提案者になれるという意義を持ちます。
実際、プロトコルアップデートの多くは、EIPによって着実に進化の道筋が整えられています。
直近の注目EIP

2024〜2025年にかけて注目されているのは、EIP-4844(Proto-Danksharding)やEIP-4788(Beacon Chainデータアクセス)など。
特にEIP-4788は、Ethereumの実行層がコンセンサス層(Beacon Chain)の情報を直接参照できるようにする提案で、ステーキング報酬のオンチェーン処理やL2報酬分配の簡素化に貢献します。
また、今後のスケーリングに不可欠な「Verkle Tree」の導入もEIPとして検討されており、ストレージ構造の根本的な見直しが進んでいます。
これらの提案は単なる機能追加ではなく、Ethereumの中核設計に踏み込むものも多く、慎重な議論が必要とされています。
実装までに時間を要することもありますが、その分堅牢で長期的な視野に立った進化が期待されています。
提案プロセスとコミュニティ

EIPは誰でも作成可能ですが、採用されるためには技術的な妥当性だけでなく、コミュニティの理解と合意が不可欠です。
そのため、GitHubでの議論だけでなく、Ethereum Magicians ForumやTwitter、Redditなど多様な場所で意見交換が行われます。
また、Ethereum Core Devs Callという定期会議では、開発チーム間の合意形成が進められています。
ここで承認されたEIPが、アップグレードとしてメインネットに実装されていきます。
提案プロセスには厳密なルールがあり、Draft(草案)→Review(レビュー)→Final(確定)といったステータスを経て進行します。
また、EIPは技術仕様を定義する「Core EIP」以外にも、「ERC(Ethereum Request for Comment)」としてトークン標準などの提案も含まれます。
たとえば、ERC-20(FT)やERC-721(NFT)はこの仕組みから生まれた代表例です。
Ethereumが世界最大のスマートコントラクト基盤として進化し続けているのは、このような分散型の改善プロセスによって支えられています。
EIPが象徴するもの

EIPは単なる開発の手順ではなく、Ethereumの哲学そのものを体現しています。
「オープン」「透明性」「コミュニティ主導」といった価値観が、コードとガバナンスの両面に刻まれているのです。
特定企業が決定権を持つのではなく、無数のプレイヤーが対等に関与できる設計。
それを支えているのが、提案と議論と合意のプロセスです。
Web3の世界が真にオープンであるためには、こうした改良の仕組みこそが不可欠です。
Ethereumはこの仕組みを制度化し、全員が“提案者”であることを保証しています。
これは他のブロックチェーンにない、非常にユニークで本質的な強みです。
今後もEthereumの進化は、このEIPという仕組みと共に歩んでいくでしょう。
L2の未来──OptimismとZKの主権戦争
L2とは何か?なぜ必要なのか?

Ethereumは今や、世界中で最も活用されているスマートコントラクト基盤ですが、その人気がゆえに取引混雑と手数料高騰という課題に直面しています。
その解決策として登場したのが「L2(レイヤー2)ソリューション」です。
これは、Ethereumの外で処理を行い、結果だけをEthereumに書き込むという構造で、スケーラビリティとコスト削減を両立します。
最も知られているL2には、Optimistic RollupとZK Rollupという2つの方式があります。
いずれもEthereumのセキュリティを維持しつつ、高速で安価なトランザクション処理を実現しようとしています。
この“外部処理の結果だけをチェーンに送る”という構造は、Ethereumの本質的な負荷を減らし、全体のパフォーマンスを大きく向上させる重要な役割を果たしています。
OptimismとZK──技術と哲学の分岐点

Optimismは「人間の善意を前提とした簡素な構造」が特徴で、悪意のある取引があった場合に誰でもチャレンジできる“Fraud Proof”で安全性を担保します。
一方ZK Rollupは、暗号技術により最初から正しさを証明する方式で、極めて高い技術的信頼性を持ちます。
Optimismは開発が容易で、初期の採用が進みましたが、ZK系はここ数年で急速に進化し、実用化が現実のものとなっています。
とくにzkSyncやStarkNetなどは、独自の開発環境やEVM互換性の実装によって注目を集めています。
これらは単なるスケーリング手段ではなく、それぞれがEthereumの未来像──どこまで計算を外に出すか、信頼をどこに置くか──という思想の違いを体現しているのです。
「L2の主権」問題──誰が支配しているのか?

最近では、「EthereumのL2が“分散的”であるはずが、実際には特定企業のコントロール下にある」という批判も浮上しています。
たとえばArbitrumやOptimismといった有名L2の多くは、中央集権的なマルチシグ(多重署名)で管理されており、コミュニティの意思とは乖離がある場合も。
また、複数のZKプロジェクトが同じ企業の傘下で進行している例もあり、L2間の“多様性のなさ”に懸念を示す声も増えています。
本来L2は、Ethereumの精神──「オープンで、誰でも参加可能で、中立的」──を拡張する存在のはずでした。
しかし今や、中央集権的な資本と運営体制が影響力を強めているという現実があります。
Vitalikの提案:「主権L2」を実現するために

Vitalikはこの状況に対して、「L2ごとにガバナンスを設計し、透明性とアップグレード権限を制限する必要がある」と警告を発しています。
とくに、L2がEthereumのセキュリティを使っている以上、“Ethereumの延長線”として振る舞う責任があると指摘しています。
この発言は、単なる批判ではなく、Ethereumの未来を共に築く仲間として、主権と中立性のバランスをどう保つかを問うものです。
今後、L2は単なるテクノロジー競争ではなく、「誰のためのインフラなのか」を示す“政治的”存在としても見られていくでしょう。
EthereumのL2戦争は、スケーリング技術だけでなく、分散と権力の哲学を問う段階に突入しています。
Ethereumの再構築──モジュール化とRollup-as-a-Serviceの衝撃
Ethereumは「一枚岩」から「モジュール」へ

かつてのEthereumは、実行・コンセンサス・データ保存などをすべて1つのチェーンで行う「モノリシック設計」でした。
しかし、今後はその構造が大きく変わりつつあります。
それが、「モジュラー・ブロックチェーン」への移行です。
この考え方では、「実行」「コンセンサス」「データ可用性(DA)」といった役割を、それぞれ異なるレイヤーに分離。
Ethereumはその中で、「コンセンサスとDAのインフラ」に専念するという方向性が見えてきています。
つまり、アプリやトランザクション処理の主体はL2に任せ、Ethereum自身は“土台”として振る舞うようになるという構図です。
Rollup-as-a-Serviceとは何か?

このモジュール化の潮流の中で登場したのが、「Rollup-as-a-Service(RaaS)」という新しいインフラモデルです。
これは、開発者が簡単に自分専用のL2を構築できるようにする仕組みで、インフラをまるごと“サービス”として提供します。
Conduit、AltLayer、Calderaなどの企業が先行しており、数クリックでL2チェーンが立ち上がるという世界が現実になっています。
今後、企業やDAO、NFTプロジェクトが“自分のロールアップ”を持つのが当たり前になるかもしれません。
これはまさに「インフラの民主化」であり、Ethereumのエコシステム拡大における鍵となる変化です。
Celestia・EigenLayer──DA層の主導権争い

モジュール化によって、Ethereum以外のレイヤーにも注目が集まっています。
特に、データ可用性(DA)層の主導権を巡っては、CelestiaやEigenLayerが台頭しています。
Celestiaは、データだけを提供するブロックチェーンであり、Ethereumと連携することでRaaSとの相性も良好です。
一方、EigenLayerはEthereumのセキュリティを再利用する“リステーキング”によって、新しいセキュリティインフラを構築しようとしています。
この動きにより、DAだけでなく、オラクルやブリッジといったサービス領域にもセキュリティを供給する仕組みが整ってきています。
RaaSの未来と課題

Rollup-as-a-Serviceは、ブロックチェーンの「AWS化」を進める存在でもあります。
今後、技術が標準化されれば、誰でもL2を持てる時代が到来するでしょう。
これは、中央集権的なプラットフォームでは不可能だった自由度をもたらします。
ただし、L2の乱立に伴うセキュリティリスクや、資本による支配構造の固定化など、新たな課題も浮上しています。
また、DAの選択やブリッジの設計次第では、分散性やユーザー保護に影響が出る可能性も。
この分野はまだ黎明期にあり、技術革新と規範設計の両輪が求められている段階です。
Ethereumが「すべてを抱え込むチェーン」から、「無数のL2の土台になるチェーン」へと変化する中で、Rollup-as-a-Serviceは最重要トレンドの1つとして注目され続けることになるでしょう。
公共財としてのEthereum──国家を超えるインフラへ
Ethereumは「公共財」なのか?

Ethereumは、しばしば「パブリックブロックチェーン」と呼ばれますが、それは単なる技術的な分類を超え、公共財としての性格を持ちつつあります。
公共財とは、誰もが利用でき、誰の排除もされないインフラ──水道や道路のようなものです。
Ethereumのオープンソース性や中立性、誰でも利用可能なスマートコントラクト機能は、まさにそれに該当します。
しかもこの公共財は、国家や企業に依存せず、グローバルに展開しているという点で、従来のインフラとは根本的に異なる設計思想を持っています。
「Quadratic Funding」による共感ベースの資金配分

Gitcoinなどで活用されている「Quadratic Funding(QF)」は、Ethereumが“公共財”として資金を集め、支えるための革新的な手法です。
この方式では、小口の共感が多いプロジェクトほど、大きな補助金を得られるという構造になっています。
たとえば、100人から1ドルずつ支援されたプロジェクトは、1人から100ドルもらったプロジェクトより高く評価されます。
これは、資本の大小よりも「共感の広がり」を重視する仕組みであり、Ethereumの民主性を経済的に表現したものともいえるでしょう。
SBTと自律的な信用の構築

Vitalikが提唱する「SBT(Soulbound Token)」もまた、Ethereumを公共インフラへと進化させる鍵です。
SBTとは、譲渡できないNFTで、学歴や資格、DAOでの貢献など、“自分の履歴や信用”を証明する役割を果たします。
この仕組みによって、中央の機関が発行した証明書に頼らず、分散的にアイデンティティを構築することが可能になります。
特に、発展途上国や国家の信用が薄い地域において、SBTは個人が自立するための重要な基盤となり得ます。
Ethereumが国家を代替する日

元Coinbase CTOのBalaji Srinivasanは、「Network State(ネットワーク国家)」という構想を提唱しました。
これは、オンライン上に構築された共同体が、国家のような役割を果たすというものです。
Ethereumは、その基盤技術としてこの構想を支えうる存在です。
グローバルな通貨(ETH)、透明な投票、分散型IDやガバナンス──これらはすべて、デジタル国家のインフラとして機能し得ます。
もはやEthereumは「単なるスマートコントラクトの実行環境」ではありません。
それは、新しい公共性、新しい信用、新しい社会構造を実現するための、“社会的OS”となりつつあるのです。
Ethereumの中立性──「何でも屋」ではなく「信頼の土台」へ
Vitalikの警鐘──中立性を守れ

Ethereumの創設者Vitalik Buterinは、Ethereumが「何でも屋」になることへの懸念を繰り返し表明しています。
とくに、EigenLayerのようなリステーキングに関して、「Ethereumの合意形成は、ブロック検証に専念すべき」と警告を発しています。
つまり、他のプロトコルや外部プロジェクトのセキュリティまでEthereumが肩代わりし始めると、本来の役割が曖昧になるという問題があるのです。
もし外部プロジェクトにバグや攻撃が発生し、Ethereumの信頼層が巻き込まれれば、ネットワーク全体の信用が損なわれる危険があります。
リステーキングの光と影

EigenLayerやSymbioticなどのリステーキングプロジェクトは、Ethereumのステーキング資産を活用して、他のプロジェクトにもセキュリティを供給しようとする仕組みです。
これは、Ethereumの経済圏の拡張という意味で非常に魅力的に映ります。
しかし同時に、Ethereumが“何にでも責任を持たされる構造”になることで、透明性や信頼性に揺らぎが生まれる可能性があります。
Vitalikの立場は、技術的進化に対して否定的ではない一方で、ネットワークの根本的な設計哲学──「中立性」「最小主義」──を守るべきだという姿勢に基づいています。
「信頼の源泉」としての振る舞い

Ethereumは、単なる実行環境や決済手段ではなく、「信頼の源泉」としてグローバルに機能することが求められています。
ブロックチェーンの分散性、透明性、不変性は、多くの社会インフラの根幹を支える性質を持ちます。
だからこそ、Ethereumは「自らが何かを決めるチェーン」ではなく、「誰かが何かを決めるための信頼基盤」であることを重視しています。
この哲学こそが、国家や巨大IT企業とは異なる、Web3時代のガバナンスの可能性を象徴しているのです。
Ethereumの未来──「何をしないか」を選ぶこと

Ethereumの未来は、単に新しい機能を増やすことではなく、「何をしないか」を戦略的に選ぶことにかかっています。
技術の万能化やマルチタスク的な進化は魅力的に映りますが、それは同時にリスクの肥大化を伴います。
真に価値ある基盤とは、自らの役割を最小限に定め、他者に自由を与える存在です。
Ethereumが「中立性」と「最小主義」を堅持する限り、そこには新たなプロトコル、新たな社会、新たな信用が芽吹く余白が生まれます。
Ethereumとは、機能の集合ではなく、“自由に未来をつくるための余白”なのかもしれません。